戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 両親と過ごした思い出の屋敷を守れなかった悔しさはあるが、行く末の知れた継母と義妹と共に転落人生を歩むよりはずっとマシだろう。


『シルファは自分の幸せを第一に考えなさい。家や領地のために我が身を犠牲にすることはない』


 母のヘレンが亡くなった直後に、父のシモンに言われた言葉だ。

 シルファを高値で買ったのは、どうやら魔塔の最高責任者らしい。冷徹無慈悲な男なのだとまことしやかに囁かれているが、その真相を知る者は限られている。それほど天上の人物なのだ。

 結局、そんな魔塔の主と謁見することもなく、シルファはカバン一つ持って魔塔に籍を移すことになった。

 シルファの境遇を聞いて同情する者も多いが、新たな生き方を与えてくれた魔塔の主に感謝こそすれ、恨むつもりは毛頭ない。

 こうして、魔塔がシルファの家であり職場となった。それが十八の頃の話だ。


 魔塔にやってきてまず実施された魔力検査の結果、シルファは新設されたばかりのメンテナンス部に配属され、今に至る。

 シルファは魔力を吸い取り、自身の魔力と中和させることができる特殊な体質を持っているため、適材適所の配置だと思っている。

 だが、やはり魔導具作りや開発が尊ばれる環境下において、メンテナンスの重要度は低く、軽く見られる仕事でもあった。魔塔においても、古くなったら新しいものを、そんな考えが主流なのだ。

 シルファ自身は魔導具に携わることができるのなら、どんな仕事だって全力で取り組む所存だ。メンテナンスだって、大切な仕事だ。魔力の滞留を取り除いてやれば、その魔導具は持ち主の元でまだ輝くことができる。

 シルファはメンテナンス部の仕事に誇りを持っているし、天職だと考えている。

 叶うならば、可能な限り長く、大好きな魔導具に携わる仕事がしたい。それだけが、全てを失ったシルファの願いであった。





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