戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「へっ!?」


 てっきり期間限定のお飾り妻になるものだと思っていたシルファは思わず声が裏返ってしまった。

 それに対し、ルーカスは平然とした様子でデスクに移動すると、引き出しから金色に輝く一枚の紙を取り出した。
 遠方からでも王都の中央に位置する神殿に瞬時に提出ができるという特別な結婚誓約書だ。もちろんシルファは実物を見るのは初めてである。

 戸惑うシルファを置いて、ルーカスはサラサラと誓約書にサインを済ませてしまう。
 そして、シルファを手招きし、羽ペンを差し出した。

 シルファは恐る恐るデスクに歩み寄り、ルーカスの名が記された結婚誓約書に視線を落とす。

 この紙にサインをすれば、二人は夫婦として認められる。

 本当にいいのだろうかという思いが脳裏を掠めるが、覚悟を決めて羽ペンを受け取った。

 ギュッと強く握りしめて、震える手で母が付けてくれた大切な名前を刻む。


「契約成立だ。今この時から俺たちは夫婦となった」


 ルーカスは結婚誓約書を手に取り署名を確認すると、満足げに微笑んだ。
 そして次の瞬間、結婚誓約書はルーカスの手の中で青い炎に包まれて消えてしまった。


「これで提出完了だ」


 消えた結婚誓約書は今頃神殿のしかるべき部署に届いているはず。
 後日正式に結婚が成立したことを知らせる文書が形式的に届くらしいが、基本的には提出をした時点で夫婦と認められる。


「ふ、不束者ですが、よろしくお願いいたします」

「ああ、よろしく頼む」


 シルファが頭を下げると、ルーカスはシルファの手を取り嬉しそうに微笑んだ。




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