戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 とにかく異議申し立てをしようと、両手を胸の前で振りながら口を開く。


「オルディル卿、そうは言いましても……」

「ルーカス」

「え?」

「今日から君もオルディルだ。俺のことはルーカスと呼んでくれ」


 あっ、とシルファが口元に手を当てている間にも、ルーカスはトントンとこめかみを指で叩きながらこれからについて言及する。


「今後のことについてなのだが、恐らく明日には俺とシルファの結婚の知らせが魔塔に届くだろう。大切な妻をデイモンの手が届く場所に置いておくわけにもいかん。まずは大事なことを確認しておかねばな……シルファはこれからも仕事を続けたいか?」


 その問いに、シルファは息を呑んだ。

 結婚したとはいえ、相手は魔塔の主のルーカスだ。

 彼の生家であるオルディル家は侯爵家であるが、家督は次男がすでに継いでおり、ルーカスは貴族特有の社交の類を免除されている。屋敷も持たず、魔塔で生活をしているのだから、屋敷の管理も必要ない。

 つまり、妻としての仕事はほとんど求められないようなものだ。それならば、これまで通り魔導具に携わる仕事を続けたいとシルファは考えている。

 スッと背筋を伸ばし、探るように向けられた黄金色の瞳を真っ直ぐに見つめ返す。



< 26 / 154 >

この作品をシェア

pagetop