戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 咄嗟にエリオットに視線を向けるも、エリオットはゆっくりと首を左右に振った。


(明日からあの部屋に行けないことだけは、伝えたいのだけれど……)


 縋るようにエリオットを見つめると、彼は小さく息を吐いてから首を縦に振った。シルファはパァッと表情を綻ばせ、勢いよくサイラスに向き合った。僅かにサイラスがたじろぎ、一歩後ずさる。


「あのね、サイラス。急な話なのだけど……私、仕事部屋を移ることになったの」

「えっ!? どうして……あ、もしかして、部長のことが原因で……?」


 驚愕に目を見開いたサイラスだったが、すぐに納得したように瞳を伏せた。


「ええっと、うん。そう、だね。それもあるかな。ごめんね」

「いや、謝らないで。俺こそ、部長から君を守れなくてごめん。力のない自分が嫌になる」


 サイラスは悔しげに拳をグッと握った。シルファはそんなサイラスを諭すように優しく話しかける。彼は男爵家の次男。デイモンに楯突くことはできないと、シルファもよく理解している。


「そんなこと言わないで。私自身の問題だもの。私ね、サイラスの仕事がとっても好きよ。丁寧で、魔導具を大切に扱っているってよく分かるもの。一緒にデスクを並べて作業することはできなくなっちゃうけど、メンテナンス部の仕事は続けるから! これからもよろしくね?」


 ニコリと微笑みかけると、サイラスはようやく強張っていた表情を和らげた。


「そっか……うん、そうだね。これからも一緒に頑張ろう」


 微笑みあったタイミングで、チン、と昇降機の到着を知らせるベルが鳴った。


「じゃあ、またね!」


 ランプを片手に持ち替え、扉が閉まるまでサイラスに手を振った。

 昇降機の扉が閉まる直前、寂しげに目を細めたサイラスに後ろ髪をひかれながらも、シルファは最上階を目指した。



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