戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「ここがルーカス様の……いや、夫婦の寝室です」

「ふっ、夫婦の寝室……」


 間違ってはいないのだが、もう少し言い方はないのだろうか。わざわざ言い直さなくてもいいと思う。

 ほわりと頬を染めるシルファには気づかず、エリオットは黙々と説明を続ける。


「魔塔最上階は階段と昇降機を中心に、ドーナッツ状に部屋が配置されています。階段を降りてすぐの扉を開けると、隣の執務室に入ります。そして右回りに、寝室、キッチン、書庫と続きます。そして書庫も執務室と繋がっています。寝室に入る扉と逆側にも扉があったでしょう? あちらが書庫です。水回りはまとまっているので、浴室はキッチンの隅にございます。といっても、十分な広さはございますのでご安心ください。隣接する部屋同士が続き部屋となっていますが、それぞれの部屋は明日ご案内しますね。では、私は軽食の準備をいたしますので、シルファ様はこちらで荷解きをお願いします。クローゼットには十分な空きがございますので、自由に使っていただいて構いません」

「はい。ありがとうございます」


 エリオットは優雅に一礼すると、執務室へと戻っていった。無駄な動きが一切ない。仕事のできる男性だ。

 シルファは大きなベッドを背に、ソワソワしながらトランクを開けた。
 衣服の皺を丁寧に伸ばして一着ずつクローゼットにしまっていく。小さな箱に入る程度の小物も取り出して空いているところに収納する。最後に空になったトランクを片付け、クローゼットの扉を閉めた。

 そしてタイミングを見計らったようにエリオットが寝室の扉をノックし、軽食が出来上がったことを知らせてくれた。





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