戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 今日の怒涛の出来事を脳内で反芻しながら、ベッドサイドに置いた魔導ランプに手を伸ばす。

 これは唯一、シルファが継母の手から守り抜いた思い出の魔導具だ。

 そっとランプの柔らかな曲線を撫で、側面に取り付けられたぜんまいをひと巻きする。
 カタカタ、と小さな音がして、魔導ランプは優しい音楽を奏で始めた。

 このランプはオルゴールが内蔵されている特殊なランプだ。市場には出回っていない唯一無二の魔導具。

 シルファが六歳の頃、魔塔が二年に一度催す開放市で実母のヘレンに買ってもらったもの。魔力が滞留するたびに吸い取って中和し、大事に今日まで使ってきたシルファの宝物だ。

 開放市には、商品にならなかった魔導具や、試作品が多く陳列される。掘り出し物も多く、平民にも開放されているため、とても賑わう。

 シルファに魔導ランプを売ってくれた少年は、年齢的にも恐らくは店番であろう。ランプの製作者は席を外していたのか会うことは叶わなかったが、いつかお礼が言いたいと思っている。

 眠れない夜、このオルゴールの音色を聞けば、気持ちが安らいでいつの間にか眠ってしまう。両親を亡くし、悲しみに暮れていた時も、不当な扱いを受け続けていた時も、シルファはこのオルゴールの音色を心の支えに暗く長い夜を乗り越えてきた。

 目を閉じ、すっかり耳に馴染んだ音色を聞く。

 これからも、優しい音色と思い出を胸に、細々と生きていこうと思っていたのに――本当に、とんでもないことになってしまった。

 そう思いながらこてんとベッドに横になり、膝を抱える。まもなく、瞼が重くなってきて、シルファは静かに眠りの世界に落ちていく。




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