戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました

第二章 新しい生活

 翌朝、魔塔の最上階には続々とメンテナンス依頼の魔導具が運び込まれていた。

 魔導具を運搬してくれたのはエリオットだ。関係者以外立ち入り禁止の魔塔最上階であるため、そう簡単に職員が近づくことはできない。


「今日は九件ね」


 シルファはエリオットから受け取った依頼書に目を通し、ひとまず小さいものから着手しようと決めて温風機を手に取った。

 シルファが昨日使ったものより随分と型が古い。きっと長く大切に使われてきたのだろう。
 始業時間までに搬入されたシルファのデスクに温風機を運び、椅子に腰掛けた。


「旧式の温風機だな」


 両手を翳し、さて、と目を閉じかけた時、興味津々といった様子でルーカスが手元を覗き込んできた。

 ルーカスはどうも距離感が近い。急に毛先が触れるほどの距離に来られると心臓が跳ねてしまうのでやめていただきたい。

 今朝のことだってそうだ。

 朝目覚めると、寝室にルーカスの姿はなかった。もしかして徹夜をしたのでは? と執務室を覗くと、ソファで突っ伏して寝ているところを発見して飛び上がった。心臓に悪いので、今日からは是が非でも寝室で寝てもらおうと密かに決意を固めている。このままでは心臓がいくつあっても足りそうにない。



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