戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「シルファの仕事の様子を見学してもいいだろうか」

「えっ、あ、はい。どうぞ」


 疲れた様子を一切見せないルーカスに問われて快諾するが、見られていると思うとどうもやりにくい。しかも相手は魔塔のトップ。すなわち王国一の魔導師だ。

 シルファは、(集中、集中……)と心の中で唱えながら、息を吐き出しながら目を閉じて被疑箇所を探る。
 組み込まれた魔術式で温かい空気を作り出し、その空気を循環させて吐き出すための回路にどうやら問題がありそうだ。

 シルファは手のひらに魔力を集中し、滞留した余分な魔力を集約するイメージで吸い取っていく。手のひらがほんのり熱くなってきたら血の巡りを意識して取り込んだ魔力を身体に巡らせる。身体の中で自分の魔力と混ぜ合わせ、身体から余分な魔力がフッと消えたら中和完了だ。

 ゆっくりと息を吐き出し、目を開く。両手を上に向けると、ふわりと優しい光が空気中に溶けて消えた。


(よかった。いつも通り、上手くできた)


 緊張してじんわり額に汗が滲んでいる。

 シルファはすっかり魔力量が安定した温風機をそっと撫でる。この温風機はこれから地下にいるサイラスの元へ届けられ、綻んだ回路を修復し、持ち主の元へと返される。


(まだまだ働きたいよね。これからも大事にしてもらうんだよ)


 そう願いを込めながら温風機を撫でていると、顎に手を当ててシルファの仕事を観察していたルーカスが嘆息した。


「美しいな」

「え?」


 思わぬ感想に、ついルーカスの顔をまじまじと見つめてしまう。ルーカスは目を瞬かせるシルファに優しい笑みを向けてくれた。




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