戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「俺は人より優れた目を持っていてな。集中すれば魔力の流れを視認することができる。この温風機の中で滞っていた魔力がシルファの中に溶け込んでいき、まるで陽だまりのような暖かな光となって昇華していった。自分以外の魔力を吸い取ることも、その魔力を中和することも普通の人間にはできないことだ。シルファはもっと自分の力を誇っていい」


 出来のいい生徒を褒めるように、ルーカスは背伸びをしてポンポンッとシルファの頭を撫でた。

 こうして誰かに認めてもらい、褒めてもらうのは両親が生きていた時以来だ。

 両親がいなくなってからは、褒められるどころか無能だ役立たずだと罵倒される日々を過ごしてきた。

 懐かしさが込み上げて思わず目頭が熱くなり、慌てて俯いた。


「あ、ありがとうございます。何も生み出すことのできない力ですが……誰かのためになっているのなら、嬉しいです」


 ズ、と鼻を啜り、笑顔を作って顔を上げる。ルーカスも「そうだな」と頷いてくれる。


「売上の観点から言えば、確かに劣化した魔導具の代わりに最新型の魔導具を買ってもらう方が収益には繋がる。だが、俺は魔導師が一つ一つ回路を組み、作り上げた魔導具が長く持ち主に愛されて欲しいと思っている。シルファ、君の仕事は誇り高い仕事だよ」


 せっかく涙を飲み込んだのに、この人はまた胸に響くことを言う。

 魔塔で最も軽んじられている仕事を、この人は美しく誇り高い仕事だと評してくれる。




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