戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「本当はあんな薄暗い場所ではなく、他の部屋に配置したいのだが、所属人数も少なく、売り上げもどの部署よりも少ない。魔塔で働く他の魔導師の反感を買うわけにも、メンテナンス部を贔屓するわけにもいかなくてな。すまない」

「……いえ。そう思っていただけていると知れただけでも嬉しいです。それに、私たちは実力で今より上の階に登り詰めてみせます」


 申し訳なさそうに眉を下げるルーカスに、シルファは拳を握って決意表明をする。

 そうだ。誰よりも魔法に精通するこの人が評価してくれているのだ。
 今まで以上に真摯に仕事に向き合って、いつか実力で地上の研究室を手に入れるのだ。

 初めて目標を手に入れたシルファの表情は、やる気に満ち溢れてキラキラと輝いている。


「ふ、そうだな。いい心意気だ。俺はシルファのそんな前向きなところを好ましく思っているぞ」

「え」


 思わず固まってしまった。

 今この人は、サラリと何を言った?

 信じられないものを見るようにルーカスを見つめるが、彼は何もなかったようにご機嫌な様子で自分のデスクに戻っていった。嵐だ。まるで嵐のような人だ。とんでもない。

 シルファは愕然とするが、きっと人間として好ましいということだろうとどうにか納得した。そうだ。それ以外にないだろう。ほとんど昨日が初対面のようなものだったのだ。地位も名誉も技術も全てを兼ね備えたルーカスが、凡庸なシルファを好きになる要素は一つもない。


(でも……他の誰でもなくて、私がいいって言ってくれたのよね)


 自由奔放で真っ直ぐで、言動はまるで少年のよう。けれど、その佇まいや雰囲気、たまに滲み出る色気は間違いなく彼が妙齢の男性であることを如実に表している。


(調子が狂う……)


 新生活初日にして、すでにシルファの心はルーカスに振り回され始めていた。





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