戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「ああ、そうだ」


 シルファが温風機をエリオットに預け、次の魔導具に取り掛かろうとしていた時、思い出したようにルーカスが顔を上げた。


「シルファには元の仕事に加えて、手が空いた時間に俺の手伝いをしてもらうつもりだ。いわば助手のようなものだから、もちろん追加の給金を支払う。俺の妻である前に、君は立派な魔塔の職員だ。仕事に見合った報酬はしっかりと受け取ってもらう」


 そう言ってルーカスに手渡された給与の明細を見て、シルファは目を剥いた。

 そこにはこれまでの基本給の二倍の金額が記されていた。


「昨日持ち込んだ荷物、随分と少なかっただろう。君はもっと自分のために贅沢を覚えるといい。寝室も無駄に広いが殺風景だ。落ち着いたら好きなものを買い揃えるといい」

「あ、ありがとうございます……!」


 再び手元の明細書に視線を落とす。

 これだけあれば、大好きな本がたくさん買える。本は高価なもので、そう簡単に手の届くものではない。これまでは節約をしてお金を貯めて、数ヶ月に一度、本屋でどの本を買おうかと悩む時間が特別なご褒美だった。

 少しずつ、子爵家で読んでいたお気に入りの本たちを探して買おう。

 子供向けのお伽話から、空想の世界を旅する冒険小説まで、思い出が詰まった本がたくさんある。
 煌びやかなドレスや宝石はいらない。もうシルファから全てを奪う存在はいないのだから、自由に好きなものを取り戻そう。

 新たに生まれた小さな目標を胸に、シルファは魔導具のメンテナンス作業を再開した。




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