戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 本日の互いの奮闘を報告し合いつつ、弁当を平らげたシルファはグッと伸びをしてからメンテナンス対象の魔導具が並べられた棚の前に移動した。

 今日の依頼は、ランプが二つ、浄水器、掃除機、それに疲労軽減の指輪だ。

 まずはランプを一つ手に取り、作業台に置く。
 点灯のボタンを押しても、ジジッと一瞬光を弾けさせてから萎むように光が消えてしまう。

 シルファは両手で包むようにランプに触れ、ゆっくりと目を閉じた。


(結構年季が入っているし、回路が曲がっている箇所があるわね。そこを中心に魔力が滞っていてうまく循環できていないみたい)


 探るように被疑箇所を特定したシルファは、ふうっと息を吐いてから手のひらに意識を集中させた。


(余分な魔力を吸い取るイメージで……)


 ランプ内に滞留していた魔力が吸い寄せられるようにシルファの中に入ってくる。
 お腹の底で練り上げた自身の魔力と、吸い取った魔力を混ぜ合わせて中和していく。
 わずかに熱を持っていた余分な魔力はシルファの魔力に中和され、収束していく。

 シルファは目を開けると、両手のひらを上にした。
 中和した魔力がふわっと手のひらから立ち上がり、空気中に霧散していった。


「相変わらずすごいよね」


 シルファの手が離れたランプをヒョイッと抱え上げ、まじまじとランプを観察しながらサイラスが微笑む。


「ありがとう。私にはこれしかできないから……」


 シルファは困ったように眉を下げながら、サイラスの褒め言葉を複雑な気持ちで受け取った。

 魔導具の回路を修復する前に、まずは魔導具内で滞留している魔力を取り除く必要がある。
 過分な魔力が溜まってしまうと、最悪の場合魔導具が爆発してしまう恐れがあるからだ。

 そして、その役割はシルファが担っている。
 シルファは魔力を放出することができない体質であり、唯一できることといえば先ほどのように魔力を吸収して中和することだけ。

 シルファが余分な魔力を除去し、魔力量は少ないものの緻密な魔力操作が得意なサイラスが回路の修復を担当する。
 メンテナンス部はたった二人であるけれど、二人三脚で日々の業務をこなしている。


「やあ、調子はどうだい」


 シルファが二つ目のランプをサイラスに渡し、浄水器の作業に着手しようとしたその時、重い鉄の扉がギィッと音を立てて開いた。



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