戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 作業の合間にルーカスの様子を盗み見ると、彼は大型の魔導具の複雑な回路を組んでいた。新たな魔導具の開発や、魔法の効果測定に実験、書類仕事など、とても多忙な様子。

 放っておけば寝食を忘れてしまうと憂いたエリオットの言う通り、息つく間もなく仕事に没頭している。
 けれど、その目はキラキラと輝いており、底なしの探究心が滲み出ている。

 魔導具に回路を刻むには、特別な魔導具が必要になる。万年筆のようなそれは、自分の魔力を流すことで魔導具に術式を書き込むことができる代物だ。特殊なインクを使用することで、流した魔力が光の軌跡となって宙に漂う。

 魔力を外に放出できないシルファには縁のないものであるが、ルーカスが描く回路は思わず見入ってしまうほどに美しく洗練されている。

 書類仕事に関しては、エリオットが要点をまとめてルーカスの指示が必要なところに絞ってデスクに積んでいるようだ。ルーカスが求める文献を取りに行ったり、回路を刻むための特殊なインクを補充したりと、涼しい顔をして相当な業務量をそつなくこなしている。最上階から降りることができないルーカスに代わり、他の階や外に足を運ぶのもエリオットの仕事となっている。

 先ほどルーカスはシルファを助手に、と言っていたが、果たしてシルファが手を出す余地があるのかどうか。

 ルーカスの描く美しい回路は、いつまでもずっと見ていられる。そう思いながらも、自分の仕事に意識を集中させた。





 ◇

< 40 / 154 >

この作品をシェア

pagetop