戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「ふむ、なるほど。俺が色々と手解きしてやりたいところだが、いかんせん仕事が立て込んでいてな。その代わりと言ってはなんだが、奥の書庫は自由に立ち入っていい。魔法の基本の書から応用、魔術式に関する論文など、魔法にまつわる資料はほとんど揃っている」

「えっ! いいのですか!? ありがとうございます!」


 ルーカスからの嬉しい提案に、シルファは思わず身を乗り出した。


「シルファが喜んでくれるのなら、俺も嬉しい。そうだな……一日に一度、少しの時間であれば分からないことに答えるぐらいはできると思う。本を読んで理解できないことがあれば、遠慮なく聞いてくれ」


 先ほど仕事が忙しいと言っていたばかりなのに、シルファのために時間を割いてくれるなんて――

 ルーカスの優しさが身に染みると同時に、どうしてそこまで優しくしてくれるのかという疑問が浮かぶ。


「シルファが俺の妻だからだよ」

「えっ、心が読めるのですか!?」


 口に出していないはずなのに、思考を先読みされて思わず両手で口元を押さえる。


「いや、シルファは分かりやすいから何となく考えていることが分かるだけだ。素直なところも可愛いな」

「うっ」


 くつくつと喉を鳴らしながら笑うルーカスを前に、シルファは行き場のない感情を持て余す。やっぱりこの人は、人たらしだと思う。

 まだ丸一日も一緒に過ごしていないが、ルーカスが噂のような冷徹な人ではないということは明白だ。
 むしろ人懐っこくて、優しくて、思いやりに溢れた素敵な人だと思う。




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