戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 ひょっこりと顔を出したのは、メンテナンス部を統括するデイモン・スペンサーだった。


「部長、お疲れ様です。ご覧の通り、いつも通りですよ」


 シルファが両手で魔導具たちを指し示すと、デイモンは頷きながら室内に入ってきた。


「ところで、今朝も君たちは他部署の雑務をこなしていたそうだね。君たちはもう少し断ることを覚えた方がいい」


 そう言ってデイモンは渋面を作るが、魔塔におけるメンテナンス部の立ち位置を誰よりも理解していることもあり、続けて深いため息を吐いた。


「いや、すまない。僕がもう少し強く意見することができればいいのだが」

「いえ、部長にはいつも良くしていただいております」


 デイモンは、品質管理室長が主務である。だが、人のいい彼は、体良くメンテナンス部の管理を押し付けられている。
 双方の管理を兼務している形となるが、業務量の違いは明白で、彼は一日のほとんどを品質管理室で過ごしている。だが、こうして仕事の合間を縫ってシルファたちの様子を確認しにきてくれる優しい上司なのだ。

 デイモンはいつものようにシルファとサイラスから業務報告を受けながら、ゆっくりとシルファに近づいてきた。
 極力笑顔を保っているが、シルファはデスクの下でギュッと拳を握りしめた。


「それで、シルファくん。やはり実家の後ろ盾がないと色々不便ではないかい? そろそろ僕の提案に頷いてくれてもいい頃合いだと思うのだが」




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