戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 こういう時、せめて自衛の魔法でも使えれば――

 悔しさを噛み殺し、掴まれていない方の手でギュッと買い物袋を握りしめると、お菓子の甘い香りが鼻腔をくすぐった。思い浮かぶのはルーカスの優しい笑顔。


(帰らなきゃ。ルーカス様のところへ)


 シルファは浅くなっていた呼吸を整え、毅然とした態度で口を開いた。


「私は望んであの人の妻になりました。何も知らないくせに、勝手なことばかり言わないでください! 先ほどの言葉は夫を侮辱するものと捉えます。今すぐこの手を離してください!」

「いいから来なさい。ああ、可哀想に。君もきっと洗脳されているのだろう? さあ、僕が君を救ってあげるから――」


 話が通じない。シルファに焦りの色が見えたその時。


「その必要はない。薄汚い手を離せ」


 焦がれていた人物の声に、思わず瞳が揺れる。

 ここにいるはずがない。そのはずなのに、どうして。




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