戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 物陰から姿を現したのは、ローブに身を包み、フードを深く被った小柄な少年――ルーカスだった。
 相手を凍てつかせるような冷たい目でデイモンを睨みつけている。

 その気迫に押され、デイモンはシルファの手首を掴んでいた手の力を緩めた。シルファはその隙に力の限り腕を振り払うと、ルーカスの元へと駆けた。


「ル――」


 名を呼びそうになって、慌てて口を噤む。

 ここで魔塔の主の名前を呼べば、デイモンに彼が誰だかバレてしまう。そもそも、どうして魔塔の外にルーカスがいるのか。
 ルーカスは混乱するシルファを守るように片手を広げてデイモンを威圧する。


「なんだね、君は……大人の問題に無関係の子供が口を挟むものじゃない」


 デイモンは口元に笑みを携えながらも、苛立ちを露わにする。


「関係なくはない。俺は彼女の――弟だ。さあ、大きな声を出されたくなければ今すぐここから立ち去れ。それとも、婦女誘拐未遂で警備隊を呼ぼうか」

「弟だと……? チッ」


 疑惑の眼差しを向けながらも、デイモンは路地の出口にチラリと視線を投げる。大通りは人の往来が多い。大声を上げれば、きっと誰かが異変に気がついてくれるだろう。

 状況が芳しくないことを悟ったのか、デイモンは舌打ちをして大通りへと消えていった。

 最後に未練がましそうにシルファを見つめて――






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