戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「……シルファ、大丈夫か」


 デイモンが消えたことを確認し、ホッと息を吐いたルーカスが後ろに隠れるシルファに声をかけた。


「はい……まさか、ルーカス様が助けに来てくださるなんて……」


 未だに信じられない。もう何年も魔塔から出たことがないルーカスが、こうして魔塔の外にいるなんて。

 シルファの問いに、ルーカスはシルファの胸元で控えめに光るブローチを指差した。


「そのブローチが君の危機を知らせてくれた。持ち主が身の危険を感じたら、知らせてくれる魔導具だ。君の危機を検知してすぐに、ブローチを座標にして魔塔から転移してきた。それにしても、しつこい男だ。最近大人しくしていたかと思ったが、気を付けねばならんな。あの異常なまでの執着はなんなのだ」


 ルーカスは眉間の皺を深めながら、自問するように呟いた。

 シルファは半ば呆然としながら、胸のブローチにそっと触れる。


「ブローチが……ありがとうございます。ルーカス様が助けに来てくれなかったらと思うと……あは、今更手が震えてきました」


 気丈に立ち向かったシルファであったが、本当はどうしようもなく恐ろしかった。
 あのままデイモンに連れ去られていたら、もう二度とルーカスには会えなかっただろう。
 息が詰まって苦しくて、大声を上げることすらできなかった。

 カタカタと震える手を抱き込むように買い物袋を握りしめる。すでに紙袋はクシャクシャになっていた。

 ギュッと握りしめた指を解くように、優しくルーカスの手に包み込まれた。


「爪が食い込んで血が滲んでいるじゃないか。さあ、魔塔へ帰ろう」

「……はい」





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