戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 その日の夜、予定通り全ての魔導具のメンテナンスを終えたシルファは、一人部屋に残って業務日誌を記していた。週替わりで担当している作業であり、今週はシルファの担当だ。

 サイラスは綺麗にデスクを片付けた後、しっかりと定時で帰宅した。

 シルファの住居は魔塔に併設されている職員寮だ。王都の外れに聳え立つ魔塔には、王国中から魔導師が集まっている。領地の遠いものは住み込みで働き、近くに住むものは通いで仕事をしている。転移魔法が使えるものは例外であるが、上級魔法であるためその使用者は限られている。

 今日持ち込まれた魔導具の状態から作業内容まで事細かに記していきながら、ここまで細かくまとめる余裕があるのも依頼数が少ないからよねと苦笑する。

 魔導具の寿命は五年から、長くて十年と言われている。ただし、それも魔力の滞りを解消し、綻びた回路を修復してやればもっと長く使うことができる。
 今日持ち込まれた魔導具はどれも年季が入っていたが、持ち主に大事に使われているであろうことがよく分かった。

 シルファは魔導具を通して、持ち主の生活に想いを馳せるのが好きだ。

 自分が作業した魔導具は我が子同然であり、これからも持ち主のために頑張ってねという気持ちを込めて送り出す。誰かの生活に深く関わることができる、とてもやりがいのある仕事だ。


「よし。あとは戸締りをしっかりして……」


 書き終えた日誌を閉じて所定の位置に戻し、ぐるりと室内を見渡す。

 二人しかいないし作業自体もあまり物を多く使うものではないため、この部屋は比較的片付いている。
 今朝訪れた製品開発部の散らかりぶりを思い出し、きっと明日も片づけに呼ばれるだろうとため息が漏れる。

 魔導ストーブを消すと、途端に室内は冷え込んでいき、シルファはブルリと身震いをした。




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