戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 どうやらルーカスに抱き締められているらしい。遅れて脳が理解し、思わず息を呑む。


「自分よりも力の強い男に無理強いをされて怖くないわけがない。シルファは強い。だが、君は俺の妻だ。何かあれば遠慮せずに頼ってほしい」

「はい……ありがとうございます」


 子供をあやすように、頭を優しく撫でられる。
 子供の姿をしているのはルーカスだというのに、奇妙な光景に思わず笑みが漏れた。

 ルーカスといると、強張っていた心も、身体も、優しくほぐれていく。

 しばらくシルファの頭を撫でていたルーカスは、不意に深く息を吐いて抱きしめる腕の力を強めた。


「ルーカス様?」

「……身分を隠すためとはいえ、君の弟を名乗るのは悔しいものがあったな。堂々と俺の妻だと叫んでやりたかった」


 確かに、あの時ルーカスはシルファの弟だと名乗っていた。あの場を切り抜けるには適切な対応であったと思うのだが、ルーカスは悔しそうに歯噛みしている。


「そんなことをしてはいけませんよ」

「分かっている……ちゃんと我慢しただろう。むしろ冷静に対処した俺を褒めて欲しいぐらいだ」


 息を吐きながら、ルーカスはシルファに頬を擦り寄せた。

 どきりと心臓が跳ねつつも、シルファも宥めるようにルーカスの背を撫でた。


「それにしても、まだゆっくり過ごす時間はあっただろう? せっかく久しぶりの街だというのに、どうしてあんなところに……」

「あ……」


 ようやく身体を離してシルファの隣に座ったルーカス。代わりにがっしりと手を握られている。

 ルーカスの指摘に、シルファは頬を染めて気まずげに視線を彷徨わせた。





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