戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「その……お菓子を買ったので、早く一緒に食べたいなと思って……」

「お菓子? ああ、これか。そうか、ありがとう」


 クシャクシャになった紙袋に視線を落とし、ルーカスは大事そうに皺を伸ばしながら表情を綻ばせた。

 シルファが話した理由は間違いではない。ただ、もっと大切なことを濁してしまっただけ。


(なんだか、きちんと伝えないといけない気がする……)


 シルファは言おうか言うまいか少し逡巡し、消え入りそうな声でポツリと白状した。


「本当は…………一人で街を歩いていると、無性にルーカス様に会いたくなったから……早くここに戻りたかったんです」


 ルーカスの反応を窺うように、恐る恐る視線を向けると、彼は呆けたように口を開けていた。


「ルーカス様?」


 名を呼ぶと、ハッとしたように息を呑み、続けてブワッと顔が赤くなった。


「……くそ、不意打ちとはズルいぞ」

「えっ?」


 ルーカスは赤くなった顔を隠すように腕を上げた。肘の辺りに顔を埋めるようにして隙間から睨みつけてくる。

 不意打ちとはどういうことだろう、と首を傾けていると、いつの間にか執務室に戻ってきていたエリオットが呆れたようにわざとらしく咳払いをした。


「ルーカス様も今日はずっとソワソワと時計を見ていたではありませんか」

「エリオット!」




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