戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「――なるほど」


 報告内容を聞いたエリオットは、腕組みをしてデスクチェアに背を沈めた。


(この件の始末がつくまで、シルファを一人にするのは危ないな)


 シルファの危機を知らせてくれるブローチだけでなく、何か護身用の魔導具を開発しなければ。


「今後街に出る用事がある時は、お前が同行しろ」

「いいのですか?」


 挑発するように目を細めるエリオットに苛立ちを覚える。


「阿呆。俺が行けるものなら行きたいに決まっているだろう。今日は緊急事態だから咄嗟に転移したが、何度も奴の前に出るのは危険だろう。悔しいが、俺が直接シルファを守ることは難しいんだよ。言わせるな」


 くしゃりと髪を掻き上げるルーカスの表情は、明らかに十歳の少年のものではなかった。

 エリオットの目から見ても、ルーカスが最初から彼女に特別な感情を抱いていたことは明らかだ。だが、何か接点があるのかと思えば、彼女にそうした素振りはなかった。

 特別な感情とはいえ、それはどちらかといえば彼女を守りたいという庇護欲に近い気持ちに見えた。だが、彼女と過ごす時間を重ねるごとに、ルーカスの纏う雰囲気は柔らかくなっていった。

 魔導具がいくら好きだとはいえ、自由に外出もできずに篭りきりの生活をしていれば、どうしても気が滅入ってしまうし苛立ちを露わにすることもある。本来自由奔放な性格をしている主人が今の生活を強いられていることは、エリオットにとっても心苦しい。

 そんなルーカスの心を癒しているのがシルファなのだ。





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