戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 いつの間にか室内には明かりが灯されていて、ルーカスがシルファの様子をジッと見守ってくれている。

 ルーカスの隣に腰を下ろすと、何も言わずに封筒と手紙を差し出した。

 怪訝な顔をして受け取ったルーカスは、まずは封筒の裏表を確認してから、手紙に視線を落とした。
 そしてみるみるうちに眉間に皺が寄っていく。


「馬鹿馬鹿しい。俺のシルファを軽んじるにも程がある」

(俺のシルファ?)


 気になる言い回しではあるが、シルファのために憤ってくれていることが嬉しいと感じてしまう。


「まさか、ここに書いてある通りにするつもりではないよな?」

「もちろん。この人とはもう何の関係もありませんから」


 念の為、といった様子で確認された言葉に深く頷くと、ルーカスはホッと安堵の色を浮かべた。


「今すぐこの忌々しい手紙を燃やしてしまいたいが、一応証拠として取っておくのが賢明だろう。君の手元には置いておきたくない。俺が預かってもいいだろうか?」

「はい」


 ルーカスは手紙を封筒に仕舞って無造作に胸ポケットに突っ込むと、シルファの手を取った。
 そして真っ直ぐにシルファの目を見つめ、ゆっくりと口を開いた。


「シルファ、俺は君が子爵家でどんな扱いを受けてきたのかも、子爵家を食い潰す奴らのことも、君の継母が魔塔に話を持ちかけてきた時に調べて知っている」

「えっ」


 思わぬ事実を打ち明けられ、シルファは思わずルーカスの黄金色の瞳を見つめ返した。

 彼の目は、ただ真っ直ぐだ。


「君の知る通り、魔塔は魔力を持て余した子供や、事情があって親と暮らせなくなった子供を引き取り、魔法の指導や仕事の教育を施している。時に金銭のやり取りが発生することもある。だが、君のように成人してから戸籍ごと魔塔で引き取るケースは過去にも例がない」

「で、では、どうして……」


 シルファを戸籍ごと買い取ったというのか。





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