戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 まっすぐ直向きに気持ちを向けてくれる人がいるということは、なんと幸せなことなのだろう。

 父を亡くした時、シルファは他者との関わりを一度諦めた。けれど、こうして新たな絆が紡ぎ直された。これはもはや奇跡にも近いことだと、シルファはそう思う。

 目を閉じて、両手一杯にルーカスからの愛を感じていると、彼は突然深いため息を吐いた。


「……はあ、今、無性に君に口付けがしたい」

「ええっ!?」


 咄嗟に身体を離してルーカスの表情を窺った。彼は少し唇をへの字にして、不貞腐れた様子で頬を染めている。


「だが、この姿ではしない。元の姿に戻るまでは我慢する。……君と婚姻を結ぶまでは、子供の姿でも特に不自由はないと思っていたが、今は一日でも早く元の姿に戻りたいと思っている」

「ルーカス様……」


 熱を帯びたルーカスの瞳。彼の言わんとすることが分からないシルファではない。
 ドキドキと胸が高鳴り、黄金色の瞳から目が離せない。


「ルーカスでいい」

「ルーカス……?」

「ああ、そうだ」


 ルーカスはフッと微笑み、シルファの頬に手を添えた。
 先ほど口付けはしないと言ったばかりなのに、なぜか眼前にルーカスの真剣な顔が迫ってくる。

 思わず息を呑み、ぎゅうっと目を閉じたと同時に、ふにっと唇に何かが触れた。

 息を止めたまま恐る恐る目を開くと、そこには悪戯っ子のような悪い笑みを浮かべたルーカスがいて、シルファの唇を親指でなぞった。


「あ……」


 何をされたのかを悟り、急速に顔が熱くなっていく。

 ルーカスは、彼の親指越しに――シルファにキスをしたのだ。


「し、しないって言いました!」

「してはいないだろう」

「ぐぬぬ……」


 真っ赤な顔で反論するも、ルーカスは楽しそうに笑うばかりだ。





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