戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 自分ばかりが翻弄されている気がする。狡い。そう思いながらも不思議と嫌な気持ちにはならない。


「さあ、眠れないのなら、添い寝をしてやろう」


 そう言ってルーカスは、真っ赤な顔で抗議の視線を向けるシルファの肩を優しく押してベッドに横たえた。
 そのままするりと自分も布団に潜り込んでくる。

 布団の中で再び優しく抱きしめられ、ルーカスの温もりを感じて心に安心感が広がっていく。


「シルファ、この魔導ランプのことなのだが……」

「ランプ……? ああ、これは私の宝物です」


 不意に口篭りながら問われ、シルファは肩越しに目だけを魔導ランプに向ける。そして懐かしげに目を細めた。


「幼い頃、魔塔の開放市で実母に買ってもらって……それ以来ずっと、私が自分でメンテナンスをして大事に使ってきました。これだけは手放したくないと、どうにか継母から守り抜いて……眠れない夜も、この音色を聞いていると……眠く……」


 もう十年以上も前のことだ。あの日のことは忘れられない。

 幼いながら魔導具に強い関心を持つシルファを開放市に連れて行ってくれた母と回った
 魔法の世界はキラキラと輝いていた。そこはシルファにとって、本当に夢の世界だった。

 その中でもとりわけシルファを惹きつけたのが、この魔導ランプだった。

 あの日は店番の少年しかおらず、製作者に直接お礼を言うことは叶わなかった。
 少年は帽子を目深に被っていたので、その表情や瞳の色は見えなかった。帽子から覗く髪色が黒かったことだけは覚えている。
 製作者の魔導師は、今も魔塔で働いているのだろうか。

 いつか会えたら、お礼を言いたい。ずっと、ずっとシルファを支えてくれた大切な宝物だから。

 幼き日の幸せな記憶を胸に抱きながら、いつしかシルファは夢の世界へと落ちていった。





 ◇
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