戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
『シルファ』


 誰だろう。愛おしげに名前を呼ぶのは。

 真っ白な世界で辺りを見回すと、微笑みを携えた長身の男性がこちらに手を伸ばしていた。
 濡羽色の艶やかな髪を後ろでまとめ、その瞳は黄金色に輝いている。

 とびきりの笑顔で答えながら、愛おしげに眼を細める彼の手を取った。

 軽々と抱き上げられ、お互いに笑みを漏らす幸せな時間。
 コツンと額を合わせて、互いに肩を揺らして笑った。

 やがて、真剣な目をした彼の顔が近付いてきて――


「んん……今のは、夢?」


 ぼんやりした頭が少しずつ覚醒していく。

 相手の顔ははっきり分からなかったけれど、とにかく甘い雰囲気の夢だったことは覚えている。なんて夢を見たのかと、じわじわと恥ずかしさが込み上げてきて頬が熱くなっていく。


「うぅっ……」


 居た堪れなくて両頬を押さえて寝返りを打つと、振り向いた先にいた人もまた、身じろぎをした。


「ん? ……あっ!」


 視線を上げると、そこには幼くも整った寝顔があって思わず息を呑む。この瞬間ばかりはどれだけ経っても慣れない。

 シルファの視線を感じたのか、ふるりと長いまつ毛が揺れて、黄金色の瞳がゆっくりと開かれていく。


「ん……おはよう。よく眠れたか?」


 やがてシルファを認識して、ふにゃりとその表情が緩まる。きっと、シルファにしか見ることができない特別な表情。そう思うと、どうしようもなく胸が切なく締め付けられる。


「おはようございます。とても幸せな夢を見ました。きっとあれは、元の姿に戻ったルーカス……」



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