戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 ある日の午後、久しぶりに仕事の手が空いたルーカスは新しい魔導具作りに精を出していた。
 元々楽しそうに仕事をする人であるが、やはり新しい魔導具の開発や研究をしている時が一番輝いて見える。

 先日、過分に注ぎすぎた魔力をシルファが吸い取って以来、ルーカスは大胆な回路を惜しげも無く刻むようになっている。それがまた一層楽しそうで、シルファはいつも微笑ましい気持ちと、少しの羨ましい気持ちを胸に抱いて彼を見つめている。

 魔力量の調整を間違えても、シルファが余分な魔力を吸い取ることができるため、開発の幅が広がると言ってくれることが震えるほど嬉しい。

 少しは彼の助けになれているのだろうか。

 そう思いながらルーカスの指示通り、回路の調整内容を懸命に記録していった。

 だがこの日、初めて魔力の吸収と作業記録以外でルーカスに呼ばれた。


「シルファも魔塔で働いて長いだろう。よければ君のアイデアを形にしてみないか? 俺と協力して一つの魔導具を作り上げるんだ」

「私が……魔導具を作る……?」


 実際に回路を刻むのはルーカスになるのだろうが、効果の設定やデザイン、回路の構築に携わってもいいということなのだろうか。

 胸の奥から熱いものが込み上げ、シルファは気づけば力強く頷いていた。
 そして慌てて自分のデスクの引き出しをひっくり返し、奥に押し込んでいた一冊のノートを取り出した。

 こんなものがあったらいいな、と夢見心地で密やかにアイデアを書き記してきたノートだ。

 魔導具にはメンテナンスの仕事でこれまでたくさん触れてきた。本でも学んだ。とりわけ、魔塔の最上階に来てからは、ルーカスに教えてもらいながらたくさんの本を読んだ。基礎知識はすでに十分に備わっているはずだ。





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