戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 インクの補充が不要な羽ペン、持ち運びができる温水シャワー、温風とシャワーを組み合わせた全身清浄器、保温や保冷効果の高いランチボックスなど、日常を少し便利に彩る等身大の魔導具。

 生活を大幅に変えるような大きな発明でなくてもいい。誰かのほんの少しの幸せや笑顔に繋がるような、そんな魔導具が作りたいと小さい頃から思い続けてきた。

 シルファは幼い頃の夢と共に、胸に抱いていたノートを恐る恐るルーカスに差し出した。

 子供の頃から使い続けているボロボロのノートを、ルーカスは割れ物を扱うように丁寧に受け取ってくれた。
 ルーカスは瞳をキラキラと輝かせながら、食い入るようにシルファのノートのページを捲っていく。


「面白い」

「ここはもっとこうしたほうが実用的だな」

「確かにこれは便利だ」


 ルーカスは真摯に、真剣に、シルファのアイデアを笑うことなく助言をしてくれる。瑣末なものだと馬鹿にせず、向き合ってくれている。

 シルファは胸の前でギュッと両手を握りしめた。

 少し前までのシルファだったなら、魔力を放出できない出来損ないが魔導具製作を夢見るなんてと笑われることを恐れて、大切な夢を書き綴ったノートを他の誰かに見せることはしなかった。

 けれど、ルーカスならば――そう信じる気持ちがシルファの背中を押してくれた。

 彼を信じる心と共に、胸の奥底から彼への想いが込み上げてくる。


 ああ――ただまっすぐに、ひたむきに、シルファを認めて未来を明るく照らしてくれるこの人が大好きだ。


 日々気持ちは降り積もるばかりで、この想いはもう疑いようもない。




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