戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもありません」


 ルーカスが怪訝な顔で覗き込んでくる。ルーカスは勘がいいので、急いで話題を転換する。


「さ、今日の魔力吸収をしてしまいましょう。両手を出してください」

「む、そうだな」


 シルファが両手を広げると、ルーカスは怪訝な顔をしつつも素直に両手を乗せてくれる。
 それだけでも信頼されているのだと感じ取れて、胸がキュッと切なくなる。

 シルファはゆっくりと息を吐いて気持ちを落ち着かせてから、ルーカスの中に渦巻く魔力の奔流を探った。誘導するように魔力の一部を吸い取って、中和する。

 空気中に中和された二人の魔力がふわりと浮き上がり、優しい光を放って溶けるように消えた。


「終わりました」

「ありがとう。もう少しで退行魔法の術式に干渉できるような気がする」


 ルーカスは魔力の感覚を確かめるように両手を握って開いてを繰り返している。

 彼の言う通り、始めは魔力が高密度で密集しているイメージであったが、今は境界が曖昧になっているように感じる。燃えたぎるマグマのような濃密な魔力はもう感じない。毎日コツコツと続けてきたことで、かなり魔力を吸い取ることができたのだろう。


 きっともうすぐ、ルーカスの退行魔法は解除される。





 ◇
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