戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 すっかり日が高くなり、汗ばむ季節となってきた。

 二十階建ての魔塔の最上階は、街で最も太陽に近い位置にある。
 だが、ルーカスお手製の魔導具により、最上階の空気は程よく循環され、熱気も篭らずに年中ちょうどいい気温と湿度を保っている。
 冬は底冷え、夏は湿気が酷かった地下のメンテナンス部の部屋と比べると、ここはとても過ごしやすい。

 穏やかな気持ちでメンテナンス依頼が入っている魔導具たちの状態を確認していると、バタバタと外が騒がしくなり、焦ったようなエリオットの声に続き、バンッと扉が開け放たれた。

 驚いてそちらを見ると、輝くようなブロンドヘアに南の海のように澄んだ青い瞳を持つ女性が堂々とした佇まいで執務室に入ってきていた。

 この場所は現在、ルーカスとシルファ、そしてエリオットのみが立ち入りを許されている場所だ。

 突然の来訪者の登場に呆気に取られていると、女性の後ろから疲れ果てた表情をしたエリオットが入ってきた。


「レストリッチ嬢、この部屋に無断で立ち入ることは許されておりません」

「うるさいわよ、エリオット。わたくしを誰だと思っておりますの? それにお父様から許可は取っておりすわ。正規の訪問よ」


 レストリッチと呼ばれた女性は毅然とした態度を崩さず、バサリと上質な羽根があしらわれた扇子を広げて口元を隠した。許可は取得しているという彼女を無碍に追い返すこともできず、エリオットは悔しそうに歯噛みしている。

 レストリッチといえば、歴史ある侯爵家の家名と同じだ。魔法省の重役にもそんな名前の人物が名を連ねていたはずだ。





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