戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 彼女は格式高い侯爵家の生まれで、身内に魔法省の重役がいて、彼女自身の魔力量も豊富だという。

 生家である子爵家とは絶縁状態で魔塔所属、身内といえば、すでに縁は切れているが、資産を食い潰す化け物となった継母と義妹がいるのみで、魔力を外に放出することができないシルファとは正反対のお嬢様だ。

 本来ならば、シルファはルーカスに釣り合っていない。チグハグな夫婦なのだ。そもそもルーカスが退行魔法で少年の姿になっていなければ、シルファとの縁も繋がらなかったはずだ。

 本来であれば、ルーカスの隣にはマリアベルが――そう想像して、ずきんと胸が痛んだ。

 全身の血の気が引いていくシルファを品定めするように上から下まで視線を滑らせてから、マリアベルはフン、と鼻で笑った。


「正論を前に言い訳すらできないご様子ね。そう、分かったわ。あなたはただの『繋ぎ』なのですね。わたくしが帰国したからには、ルーカス様の妻の座はわたくしのもの。あなたの役目は終わりました。今すぐ出ていってくださらない?」


 マリアベルは扇子をシルファに向け、邪魔者を払うようにパタパタと上下させた。

 重たい風がぬるりとシルファの頬を撫で付ける。


「あら?」


 マリアベルは、シルファがギュッと両手に握りしめていた冷風機に視線を落とした。


「その冷風機、回路が欠損しておりますわね。随分魔力が滞留しておりますわ。そんなものさっさと捨てて新しいものに買い換えればいいものを」


 まるでゴミでも見るかのような目に、シルファはたまらずにガタンと椅子を鳴らして立ち上がっていた。





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