戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
 シルファを侮辱するのみならず、持ち主に大切に扱われてきた魔導具をも侮辱した。そしてそれはメンテナンスの仕事も侮辱するのと同義である。


「きちんとメンテナンスすれば、この冷風機はまだまだ使えます。何でもかんでも新しいものに買い換えるのが美徳だとは思いません。物を無駄にせず大切に扱う心こそ美しく、尊ぶべきものです」


 真っ直ぐにマリアベルの青い目を見つめ返す。マリアベルは反論されるとは思っていなかったようで、僅かにたじろいだが、すぐに胸を反り返らせた。


「それは貧乏人の考えですわ。貴族たるべきもの、率先して新しい魔導具を生み出し、使用することで、国の発展に寄与しておりますの。あなたのような愚鈍で質素なお方には到底理解できないでしょうけど」


 マリアベルは口元に手を添えて高笑いをした。

 確かに彼女の言うことも一理あるかもしれない。けれど、国の発展のために生み出された魔導具たちを蔑ろに扱っていいはずがない。

 シルファが震える拳を握って口を開こうとした時、バンッと続き部屋への扉が開いた。


「随分と勝手なことをしてくれたな」


 現れたのはルーカスと、その後ろには髪を乱したエリオットが立っている。いつの間にか姿を消していたエリオットは、ルーカスを呼びにいってくれていたらしい。

 彼の姿を見てホッと安堵したのも束の間、マリアベルを前に子供の姿で現れるのはまずいのではないかと思い至る。
 シルファの顔がサッと青ざめた。




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