戸籍ごと売られた無能令嬢ですが、子供になった冷徹魔導師の契約妻になりました
「あなたは……?」


 マリアベルが訝しげな表情をしてルーカスを見つめる中、彼は真っ直ぐにシルファのところに向かってきてくれた。


「すまない。俺が席を外していたばかりに、辛い思いをさせたな。君の姿は立派だった」

「ルーカス……」


 両手を握られ、先ほどまでの震えが収まっていく。

 そんなシルファとルーカスを見比べるように観察していたマリアベルの目が、大きく見開かれた。


「え、まさか、ル、ルーカス様……!?」


 流石に魔法省の重役だという祖父も重要機密事項を軽々しく口にはしなかったようで、マリアベルは驚きのあまり扇子を床に落としてしまった。コツン、と乾いた音が室内に響く。


「ああ、俺がルーカスだ。事情があってな、この姿から戻れなくなってしまった。レストリッチ卿も事情を知っているはずだ。あなたがこのことを知らないのならば、俺の執務室への立ち入り許可取得の件も信憑性が薄いな。無断で執務室に立ち入り魔塔の最高責任者である俺の仕事を妨害したと、正式に魔法省に抗議してもいいのだぞ?」

「そ、それは……まさか、そんな……」


 マリアベルは動揺して目を激しく泳がせている。彼女の様子から、独断での突撃であったことは明白だ。

 ルーカスはため息をつきながら髪をかき上げると、シルファの腰を引き寄せた。


「いつ元の姿に戻れるかも分からず、そもそも元に戻れる保証もない。このままだと子供を成すことすらできん。お前はそれでも俺の伴侶になりたいと、そう思うのか?」

「そ、それはもちろん――!」


 肯定の言葉を紡ごうとしているのだろうが、マリアベルの口からは続く言葉が出てこなかった。はくはくと口を動かし、最後には悔しそうに唇を噛み締めた。





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