叶わぬ想いは記憶の底に 兄妹だからこの想いは諦めないとダメですか?(マンガシナリオ形式)

2.お兄ちゃん

〇高校・陸上競技場 中
  壁時計、15時15分。
  美咲、周回走路を走る。
  優馬、缶コーヒーを飲みながら美咲を眺める。
  壁時計、15時29分。
  美咲、ゴールラインを超えると歩きながら汗を腕で拭う。
  優馬、タオルを美咲の肩にかけ、水を手渡す。
優馬「走りすぎ」
  美咲、水を一気飲み。
  優馬、スポーツドリンクと水を交換。
  美咲、スポーツドリンクを飲む。
美咲「ふぅ」
  優馬、スポーツドリンクのペットボトルを受け取る。
  美咲、タオルで顔の汗を拭く。
  学校のチャイムが鳴る。
美咲「授業行かなくていいの?」
優馬「退院した日に授業受けたかったか?」
美咲「んー、嫌かも」
  美咲、タオルを肩から外すと優馬に手渡し、再び走り出す。
優馬「おい、あと2周だけだぞ」
  優馬、溜息をつきながら空のペットボトルを片付け、帰る準備をする。
  美咲、走路から抜け、フェンス近くの優馬のもとへ歩く。
優馬「帰るぞ。もうすぐ部活が始まる」
美咲「うん、連れてきてくれてありがとう。お兄ちゃん」
  優馬、荷物をまとめる手を止め、目を伏せる。
優馬「(小声で)お兄ちゃん……か」
  美咲、タオルを羽織りながら地面に座り、固く締めた靴の紐を広げる。
美咲「ねぇ、ユウちゃん。今日のフォームどうだった? あんまりうまく走れている気がしなくって、どこがダメ……」
優馬「思い出したのか!?」
  優馬、美咲の前にしゃがみ、美咲の両肩を掴む。
美咲「え? 何が?」
優馬「今、俺のことを」
美咲「え?」
  美咲、首を傾げる。
  優馬、ゆっくり手を放し、立ち上がる。
優馬「……ごめん、なんでもない」
  優馬、シューズ袋と靴下、帰宅用のスニーカーを美咲の横に置く。
  優馬、スマホで撮った動画を再生しながら、スマホを美咲に手渡す。
優馬「左肩がいつもよりも少し下がっているからだと思う」
美咲「あ、ホントだ」
  優馬、美咲が脱いだスパイクにパンダの脱臭剤を突っ込み、シューズ袋に入れる。
優馬「事故の時に、左から倒れたからかもしれない」
美咲「お兄ちゃん、すごいね」
   美咲、スマホの動画をスロー再生する。
優馬「三条先生に4時までしか許可もらってないから、着替えて帰るぞ」
美咲「はぁい」
  美咲、スマホを返す。
 
〇自宅・駐車場
  北西道路の角地、二階建ての一軒家、駐車場は家の前に二台分。
  運転席に優馬、助手席に美咲。後部座席に荷物。
優馬「はい、おかえり」
  優馬、車のエンジン停止。車を降り、後部座席から荷物を出す。
  美咲、車から降りる。
  優馬、玄関の鍵を開けて扉を持ち、美咲を先に玄関の中に通す。

〇同・玄関 中
  美咲、靴を脱ぎ、荷物を受け取って階段を上がる。
  優馬、美咲の後ろ姿を見つめる。

〇同・美咲の部屋 中
  美咲、シャワーを浴び、髪が濡れた状態。部屋着。スマホを持ちながらベッドに横になっている。
  スマホ画面に表示『香莉奈:退院おめ!』
  『美咲:(ありがとうのスタンプ)』
  『香莉奈:もう大丈夫?』
  『美咲:検査とかいっぱいしたんだけど、大丈夫だって~』
  『香莉奈:(よかったのスタンプ)明日から学校来れる?』
  美咲、スマホに『お兄ちゃん……』を入力して送信ボタンを押す。
  スマホ画面に表示『美咲:お兄ちゃんが病院の先生と話したからわからない』
  『香莉奈:そっか。早く来てよね(寂しいのスタンプ)』
  『香莉奈:やっぱ優馬先輩、頼りになるよね~(ハート)』
美咲「……香莉奈もお兄ちゃんのこと知っているんだ」
  スマホ画面『香莉奈:そういえばさ、告白ってしたの?』
美咲「告白?」
  美咲、スマホに『(?のスタンプ)』を入力して送信ボタンを押す。
スマホ画面『香莉奈:優馬先輩に告白するっていってたじゃん(わくわくのスタンプ)』
  美咲、飛び起きる。
美咲「え?」
  美咲、スマホ画面を見つめる。
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