叶わぬ想いは記憶の底に 兄妹だからこの想いは諦めないとダメですか?(マンガシナリオ)

3.いない人

〇自宅・美咲の部屋 中
   美咲、ベッドの上であぐらをかく。
美咲「私があの人に告白?」
   美咲、スマホに入力『そんなこと言ってた?』
   スマホ画面『香莉奈:正直に白状しなさい~(笑いのスタンプ)』
   『美咲:実はちょっと記憶が抜けてて』
   『香莉奈:頭を打ったから?(首を傾げるスタンプ)』
   『美咲:香莉奈のことは覚えてるけどね。テストが32点だったこととか(笑いのスタンプ)』
   『香莉奈:(涙のスタンプ)』
   美咲、ベッドに横になる。
美咲「告白……私があの人に?」
   美咲、スマホの写真フォルダを開く。
   スマホ画面:友達とスィーツを食べている写真、学校行事の写真、部活の写真、優馬と一緒に写った花見写真、隠し撮りに近い優馬だけの写真が並ぶ。
美咲「お兄ちゃんなんでしょ? なんで?」
   美咲、スマホを真剣に眺めたあと、スマホを持ったまま眠る。

〇同・リビングダイニング(夜)
   優馬、ソファーに座りながらテレビを見ている。
   母、買い物バッグを持ち、リビングに入ってくる。
母「ただいま。美咲ちゃんは?」
優馬「寝てる」
母「……そう」
   母、買ってきたものを冷蔵庫にしまう。
母「検査結果は?」
優馬「脳波も異常なしだって」
母「夕飯も食べずに寝ちゃったのね」
   母、冷蔵庫からサラダを取り出す。
   母、肉じゃがと味噌汁の鍋を火にかけると、着替えるためにリビングから出て行く。
   優馬、ソファーから立ち上がりテレビの前を通ってキッチンへ。
   サイドボードに線香立て、花瓶、湯飲み、位牌が4つと写真立て。
   写真立て:祖父母と父の兄と兄嫁の結婚式の写真。
   優馬、冷蔵庫から味噌を取り出す。慣れた手つきで味噌汁を作り、火を止める。
   着替えた母が戻ってくる。
母「起こした方がいいかしら」
優馬「寝かせておいてやれば? 今日も走ったし」
母「今日も?」
   優馬、味噌汁をお椀に注ぐ。
   母、お茶碗にごはんをよそう。
優馬「学校に寄って走ってきた。部活が始まる前に」
   優馬、肉じゃがの火を止める。
優馬「走っていると何か思い出しそうになる、だってさ」
母「ユウのこと?」
優馬「スパイクの履き方も、走り方も、水のがぶ飲みも。何も変わっていないのに。家のことも覚えているのに」
   優馬、お玉を手に取り、肉じゃがを皿に移す。
優馬「(小声で)俺だけアイツの世界にはいないんだな……」
   優馬、お玉をグッと握りしめる。

〇高校・教室2-B 中(朝)
   半分くらいのクラスメイトが教室の中にいる。
   席に座っている子はあまりいない。立ち話をしながら笑い合っている。
   香莉奈、教室に入ってきた美咲に抱きつく。
香莉奈「みぃ~さぁ~きぃぃ~」
美咲「おはよ」
香莉奈「怪我してない! よかった。包帯グルグル巻きかと思った」
   美咲、席に鞄を置く。
由衣「トラックとぶつかりそうになったって聞いて、びっくりしたんだよ!」
美咲「あはは。コケただけ」
   美咲、耳の後ろを掻く。
由衣「んもぉ~! ちゃんと信号見なよ」
美咲「あ、でも、自転車は引かれちゃった」
香莉奈「自転車だけでよかったよぉ」
   予鈴が鳴り、クラスメイトたちが席に座る。
   美咲、席に座り、窓の外を眺める。
   ×  ×  ×
   美咲、古典の教科書を開く。
   時計は9時20分。
   ×  ×  ×
   先生、黒板に数式を書く。
   時計は11時45分。
   ×  ×  ×
   時計、12時35分。
   机をくっつけ、お弁当を食べる美咲、香莉奈、由衣。
   美咲は手作り弁当、香莉奈はコンビニのサンドイッチ、由衣は購買のパン。
香莉奈「いいなぁ、優馬先輩の手作り弁当」
美咲「えっ?」
   美咲、お弁当を見つめる。
由衣「私もイケメンで優しくて料理ができるお兄ちゃん欲しい」
   由衣、パンをかじる。
香莉奈「全国2位ってカッコ良すぎるよね」
由衣「怪我でもう走れないなんてね〜。走ってるところ見たかったなぁ」
美咲「怪我……?」
   美咲、首を傾げる。
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