ワケありお嬢さま
Side凌雅
◆Side凌雅◆
夕食はオムライスにした。
食べ物の好みなどの情報を何一つ耳に入れずにここまで来てしまったが
養護施設時代、下の年齢の子たちが喜んだものと言えばオムライスだったことを思い出し作ることにした。
そこまで時間がかかる料理では無いこともあり、パパっと作り上げ、双葉様のお部屋へ向かうと
ベッドの上で綺麗な寝顔を覗かせていた。
3つも年下な双葉様だが、寝ている様子は少し大人っぽさも感じた。
申し訳ない気持ちもありつつ起こすと、猫のように目を擦り体をあげた。
"可愛い" なんて思ってしまった自分もいる。
そんな気持ちは隠しつつ、平然と起こしてダイニングへ向かった。
「美味しい!」
双葉様から笑みがこぼれていた。先程まで微塵も変えることのなかった表情が変わった。
執事としての喜びと共に、再び"可愛い"と感じてしまいながら
「ありがとうございます。」
と平静を装い答えた。
そしてしばらくすると、双葉様から思ってもみない提案をされた。
「田中さん」
「はい。なんでしょう。」
「実はお願いがありまして…」
「私にできることであればなんなりと。」
「今日で私の執事をやめることってできますか?」
数日前に1人前の執事として表に出てきたのに、すぐに解雇されるのか?
何か悪いことでもしたのか?オムライスが口に合わなかったのか?
色々なことを思い返してみたが、何も思い当たらず驚きと途端の緊張が走る。
しかし、冷静に考えると大前提として双葉様には権限がないはず。
一瞬止まりはしたが、そのまま言葉を続けた。
「私の今の主人は旦那様になります。旦那様からの指示があればやめることができます。」
「やめるといってもお給金や住居はそのままで構いません。私を仕えるという見方ではなく1人の人間として接してほしいのです。」
何がしたいのかよく分からなかった。
1人で暮らしたいのであればここから出ていけばいい話だと思っている。
ここから出ても友だちのツテなどもあるだろう。
しかし、続けて話をしていた為ひとまず話を聞くことにした。
「2年後を考えた時に、自分の身の回りの事をできるようになっていた方が良いと考えたのです。」
双葉様は今ではなく、既に未来を見つめていたのであった。
今しか考えていなかった自分が少し恥ずかしくも感じた。
頼もしさと、やはりこのいい子が勘当されるほどのことをしたと思えず応援したいと思う気持ちとで
「承知いたしました。では、明日から私も執事としてではなく田中凌雅として過ごさせていただきます。」
OKを出した。
執事として雇われているはずが、執事として仕事をしなくて良いと言われ、この先どんな生活になるかと少し楽しみな気持ちが勝った。
執事をやめるにあたり、何個かルールも決めた。
途中、ルールを決めている最中に
「送迎等も無しで大丈夫です。1人で移動もできますので。」
「双葉様はこの辺りの事情を知らないようですが、駅まではかなり距離があるかと。」
「そうなんですね…では、学校まではお願いします。」
未来を見つめていると最初に褒めたが意外と抜けているようでもあった。
「私からもひとつ提案をよろしいでしょうか?」
「なんでしょう?」
「このまま双葉様とお呼びするのは違うと思いまして。榎本さんか双葉さんかどちらがいいですか?」
「確かにそうですね…ふ、ふたばで」
「かしこまりました。それでは私も凌雅とお呼びください。」
突然なぜこのような提案を自らしたのかは、自分でもよく分からなかったが、2年過ごすのであれば少しでも仲良くなれるようにと思ったのかもしれない。
明日からは執事ではなく、友だちとして接していくこととなった。