ワケありお嬢さま Side双葉

修学旅行





バイトのある生活にも少しずつ慣れ、いよいよ修学旅行がせまってきた。

修学旅行先は沖縄。
何度か家族旅行でも行っている慣れた場所だったが、新たにできた友だちと一緒に行くことが出来るワクワク感が強かった。


怒涛のバイト生活だったのでギリギリにパッキングも無事に済み、いよいよ今日出発。
荷物も多く朝早くに空港へ集合ということで、空港まで凌雅さんに送ってもらった。

私の過去を嫌な顔ひとつせずに聞いてくれた凌雅さん。
あれから凌雅さんは何となく少し表情も優しくなり、プライベートでは私のことも呼び捨てになり、子どもかのように甘やかしてくることが増えた。



「帰りですが、出発が遅れるようであれば連絡ください。一応、聞いている予定時間には空港へお迎えにあがる予定です。」
「ありがとうございます。」
「楽しんできてください。」
「はい!あの…凌雅さん。」
「何でしょうか?」
「その…旅行中に……いや、なんでもないです!」
「…そうですか」

首を傾げて不思議そうな表情もしていたが、変わらず、執事としての時間はしっかりとした頼れる執事な凌雅さん。
ここまでしばらくずっと一緒だったこともあり、修学旅行で離れることへ少し寂しさも感じていた。
旅行中の夜、電話かけてもいいかと聞こうと思ったが、仕事中の凌雅さんには何となく話ずらかった。



空港へ到着し、凌雅さんと別れるとすぐに未羽ちゃんや夏目くん、加藤くんと合流した。

沖縄に到着し、1日目は史跡見学。

「みて!すごい!」
「これが首里城か〜」
「ほんとに赤いんだね。」

未羽ちゃんと夏目くん、そして加藤くんと3人とも目を輝かせて見ていた。

「ほんとにすごいね…クシュン!!」
「双葉ちゃん大丈夫?」
「ありがとう未羽ちゃん。大丈夫だよ!」

もちろん、私も史跡は好きなので夢中だったが、今日はやけに寒く感じてよくくしゃみが出た。
沖縄って暖かいはずなのに…気温差にやられかけているのかもしれない。
体は強い方なので気にせず史跡見学を楽しんだ。


2日目の朝。
朝起きると少し、体の重さを感じたものの疲れだと思い気力を絞って立ち上がってみると、

バタン!!

見事に全身に上手く力が入らずそのまま倒れてしまった。

「双葉ちゃん!?」
「あはは…びっくりした…」
「いや、私がびっくりしたよ。大丈夫?」
「うん、バランス崩しただけだよ。」
「良かった…」

未羽ちゃんに心配かけまいと普段通り振る舞ってみたが、何となくいつもと違う様子は感じていた。
きっと熱が出ている。

みんなが楽しみな修学旅行を台無しにしてはいけないと思い、そのまま2日目の行程に向かった。

2日目は沖縄といえばの海。

ホテルの目の前のビーチ。
海の家を貸し切り、海へ入るもよし、食事を楽しむもよし。自由時間となっていた。
水着を着たものの、寒さは変わらずだったのでパーカーの下に長袖も着て海には入らず過ごすことにした。

「双葉ちゃん、行かない?」
「うん、ごめんね。海あまり得意じゃなくて…未羽ちゃんたちは楽しんできて!」
「じゃあ、海から戻ってきたらみんなで砂のお城でも作ろう!未羽ちゃんが楽しめるように!」
「楽しそう!ありがとう。」

未羽ちゃんは本当に優しい。
体調も早く良くなってくれるといいけど…
そう思いながら海をぼーっと眺めていると横から声をかけられた

「おねーさん!1人なら俺と一緒に遊ぼ!」
「えっと…人を待ってるので」
「じゃあ待ってる間だけ!」

よく聞く、海でのナンパだろう。
話だけならと思い、しばらく話していると。

「何してんの?」

加藤くんが声をかけてくれた。

「おー待ってたのって彼氏?」
「あ…はい。」
「残念だったなあ~ばいばーい」

咄嗟に彼氏なんて嘘をついてしまったが、加藤くんが来てくれて良かった。

「あの、ありがとうございました!」
「変なのに絡まれてそうなの見つけたからさ!てか、彼氏なんて言われたら俺さらに意識しちゃうよ?」
「それは…すみません、咄嗟に…」
「そうだよね!そのまま彼氏になってもいいけど?ま、それは置いておいて、海行こうよ!」

「あまり得意じゃなくて…」
「じゃあ足先だけとか!」
「足先だけなら…」

そう話しながら立ち上がると朝同様再び倒れそうになってしまった。

「おっと。」

加藤くんが倒れるギリギリで支えてくれたが、近すぎて熱がバレてしまわないかとドキドキした。

「って双葉ちゃん、熱ある?」
「いや…えっと…本調子ではないかもです。」
「先生に言って、ホテル戻ろ。俺、一緒に行くから」
「そんな、大丈夫です!1人で戻れるので。加藤くんはみんなと楽しんでください!」
「心配だよ、双葉ちゃん。」
「ありがとうございました。」

予想していた通り、すぐにバレてしまったが、お礼を伝え何とか加藤くんと別れた。
そのままビーチに残ろうかとも思ったが、体もかなりしんどくなってきていたのでひっそりと先生に伝えホテルに戻った。


「はあ…」

1人でいるということもあり、何も気にせず大きなため息が出た。
楽しみにしていた修学旅行のはずが、熱でダウンするなんて…
バイトも詰め込んでたし、きっと疲れもあったのだろう。
とりあえず、寝ることが1番の薬になると思い、そのまましばらく眠ることにした。




目が覚めると外はもう夕暮れ時だった。
荷物を見るに、もう未羽ちゃんも戻ってきているようだったが用事なのか部屋に居なかった。

♫〜

携帯が鳴った。
かけてきたのは凌雅さんだった。

「もしもし。」
「もしもし。双葉?学校から連絡あったけど大丈夫?」

緊急連絡先を凌雅さんにしていたので、きっと熱を出したことを連絡してもらっていたようだった。

「はい。まだ熱はありますが…バイトも詰め込んでたので疲れが出てしまったのかもしれません」
「ったく…食事は取れてるのか?」
「食欲は落ちてないので、きっとすぐ良くなると思います。」
「ならいいけど。」
「心配かけてしまいすみません。お土産買って帰りますね。」
「体調悪いならいらないから。体大事にな。」
「ありがとうございます。」
「じゃあ。」

そういうと電話は切られてしまった。
心配してもらい嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちと混ざっているところに今度は部屋へ来客がきた。

コンコン

「入ってもいいかな?」
「はい。」

入ってきたのは加藤くんだった。

「大丈夫そう?」
「ご迷惑かけてすみません。熱はありそうですが、少し元気にはなりました。」
「良かった!明日はまた一緒に沖縄回れると良いけど…」
「私も、水族館行きたいので頑張って治します!」
「無理だけはしないようにね!」
「はい!」

加藤くんといい未羽ちゃんといい、本当に優しい友だちに恵まれたなあ。
嬉しさでいっぱいだったが、急に加藤くんの表情が真剣になり空気もピンと張り詰めた。

「あのさ、双葉ちゃん。」
「はい。」
「こんな時に伝えるのどうかと思ったけど、今伝えたいと思ったから伝えるね。」
「はい…」
「俺と付き合ってほしい。」

急な告白。
熱のせいなのか急な告白のせいなのか頭が上手く回らず、ただ加藤くんを見つめていた。

「海で知らない奴に絡まれてるのを見て、やっぱり嫌だったし。熱なのに無理してたのとかも俺、双葉ちゃんを守ってあげたいなって。」

私のことを好いてくれている。
それだけで本当に嬉しい。
加藤くんは優しいし、素敵な人。
でも……


「ごめんなさい。」

付き合うという気持ちにはなれず断ってしまった。


「そうだよね。そんな気がしてた。好きな人でもいる?」
「それは…いない…ですね」
「それなら大丈夫!居ないなら俺にもまだチャンスあるって事だし!」
「そう…ですね。」
「俺は、双葉ちゃんに好きになってもらえるように頑張るから!それだけは覚えておいて。」
「分かりました。」
「じゃあ、お邪魔しました。お大事にね。」
「ありがとうございます。」

加藤くんは嵐のように去っていった。


ひと段落して、加藤くんに言われたことを思い出した。
好きな人。
そう言われてなぜか最初に浮かんだのは凌雅さんのことだった。
優しくて、ちょっぴり怖いけど今の私を全て知ってくれている唯一の人。
大切な人なのは間違いない。


私、凌雅さんのこと好きなのかな?


好きだとしても、この恋もきっと伝えてはいけない恋。
光希くんの時みたいになるのはもう嫌だ。
この気持ちは心の奥深くにしまっておこう。
そう心に決めたのだった。



3日目。
体のだるさは残っていたが、熱は落ち着いていたので再び修学旅行の行程への参加に戻った。

昨日はあの後、朝から体調悪かったなら言いなさいと未羽ちゃんに怒られてしまった。

3日目の今日は班で沖縄の市街地を自由行動。
夕方の便で帰ることになっている為、それまでに空港へ集合とのことだった。

水族館にご当地グルメのお店、お土産屋さんと私の体調をみんなが心配してくれながらだったがたくさん回ることができた。
そして昨日の告白もあって、少し加藤くんと話すのに緊張もしていたが、加藤くんはいつも通りに接してくれた。

時間になり、飛行機へ乗ると無事地元へも到着した。


体調を心配してか、駐車場で待っていてくれる予定だった凌雅さんもロビーまで迎えに来てくれていた。

「じゃあみんなまた来週!」
「体調早く治しなよ!」
「お大事に〜」
「お大事に!」

未羽ちゃん、夏目くん、加藤くんに見送られ空港を後にした。



「体調はいかがですか?」
「熱は下がりましたがまだ本調子では無いですね…」

執事モードの凌雅さんと話すのはちょっと緊張する。
いや、この緊張は昨日の気持ちを変に意識してしまっているのかもしれない。

「あ、でも。もう大丈夫ですから!明日からはまたバイトもありますし。」
「明日はお休みされてはいかがですか?」
「お仕事に穴を開ける訳にはいかないですよ…明日にはきっと本調子に戻りますし!」

休んだ方がいいのは重々承知。
でも、バイト先への申し訳なさが強かった。
すると、パタッと凌雅さんは話すのを止め、そのまま家まで向かったのだった。
凌雅さんを怒らせてしまったかもしれない…

再び話をしたのは夕食時。
準備を手伝おうとすると追い返されてしまった。

そして部屋に雑炊が運ばれてきたのだった。

「病人は寝てろ。」
「ありがとうございます…」
「あと、明日のバイトだけど。」
「ダメ…ですか…?」
「バイト先に連絡入れといた。」
「え?!」
「そうでもしないと休まないでしょ双葉。」
「……」

言い返せなかった…ごもっともだった。

「手間かけてしまい、すみません。ありがとうございます。休みます。」
「よろしい。」

そういうと私の頭をポンポンと触り、凌雅さんは部屋を出て行った。

強引だけど、ちゃんと考えてくれているのは伝わったから。
少し前だったら絶対喧嘩になっていたけれど。


凌雅さんが好き。

そう確信してしまった。
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