読書日和【少女小説編】
【あなたの夢かなえます!】/小林深雪
小林先生と言えば現在は青い鳥文庫での活動がメインですが、私は90年代後半~00年前半にティーンズハートを読んでいた世代です。
そのティーンズハート作品の中でも、この作品は私が小説を書くきっかけにもなった夢の原点とも言える大好きなお話です。
女の子が一度は憧れる芸能界シンデレラストーリーに最後までドキドキワクワクさせられました。
ことみと凪子の友情にも感動したし、リアリティのある芸能活動エピソードはテレビで観る華やかな部分だけではなくて裏でどれだけ大変な思いをしているか知ることもできたし、10歳差の恋愛がどうなるのかもハラハラドキドキしながら読んでいました。
少女漫画的な内容と10代向けの読みやすい文章でありながら、芸能界の厳しさや夢をあきらめずに努力することの大切さも描かれていて、メッセージ性もある作品です。
【翼をください】/橘もも
当時自分とほぼ年の変わらない方がデビューしたことにも衝撃を受けて読みました。
両親の不仲やクラス内のいじめにいらだちを感じながらも冷淡な主人公・京歌が、1つ年下の少年・翼と出逢ったことで少しずつ前向きに変わっていくストーリーです。
ちなみにこの作品、私自身が京歌と同じ中学3年の時に、所属していた演劇部で台本化して劇にして私が京歌の役を演じました。
いじめについて、勇気について、命について、15歳ながらに色々と考えながら演じた思い出の作品です。
15歳という年齢ならではの受験や進路に対する悩み、家庭の悩み、友達関係の悩みが等身大に描かれています。今15歳の方にぜひおススメしたい作品です。
【揚羽蝶の行方】/藍川晶子
数あるいじめがテーマの作品の中でも特に大好きな作品です。
蝶々をモチーフにした独特な世界観と、美しい文章にとても感銘を受けました。
親友に裏切られてから周りの友達に無理に合わせて顔色を伺いながら過ごす主人公の藤子 を“木葉蝶”、自由奔放でマイペース、色鮮やかなファッションが大好きな翠 を“揚羽蝶”にたとえた設定が素晴らしいと思います。
発売当時はスクールカーストという言葉はまだありませんでしたが、今でいうクラス内のスクールカーストもテーマになっていて、とてもメッセージ性のある作品です。
中でも印象的だったのが、藤子が密かに恋心を抱いている従兄妹の晃に、小学生の頃いじめられていたことを告白した時に晃が言った「逃げるのと負けるのは違う。逃げてもいいけど負けるな」というセリフです。
藤子はクライマックスのシーンでこの言葉に背中を押されて勇気ある行動を取るのですが、とても深い言葉だなと感動しました。
また情景描写がとても綺麗で、私もこんな文章が書けるようになりたい!と高校時代から尊敬している作家さんです。
今でも自分の創作活動がスランプになったら必ず読み返すお気に入りの作品です。
【人魚の見た夢】/ 藍川 晶子
人魚姫をモチーフにした、16歳の少女のひと夏の旅物語。人魚姫のように綺麗で大好きだった母への憧れと愛情、裏切られたという悲しみ、怒り…複雑な心情がとても丁寧に表現されていて、感情移入しながらどんどん読み進めてしまいます。
新しい家族と幸せそうに暮らす母の姿を見て、自分の存在はお母さんにとって一体なんだったのだろう?と絶望してしまう真澄だけど、その後会いに来てくれたお母さんから、離れている間に出せなかった手紙をもらって確かに愛されていたことを知るシーンは何度読んでもグッときます。
“海には目には見えないけどたくさんの金がとけているように、誰かのことを大事だって思う気持ちも同じ。お母さんが真澄ちゃんを大好きだって思う気持ちは真澄ちゃんの心にとけてるよ”
とても綺麗な表現だなぁとすごく感動した大好きな言葉。風景描写もとても美しく繊細で、言葉選びのセンスと流れるように綺麗な文章が大好きな作品です。
【Piece かけらのこころ】/橘もも
高校3年生の進路を決める大事な1年の始まりに、2年間つきあっていた彼氏と別れたさやかと、親が開業医だから医者になると決めている絢子。
ふたりの視点から恋愛、進路、友情を描く等身大の高校生の物語。特別ドラマチックな展開があるわけではないけれど、実際にありそうなエピソードが多く、リアリティのあるストーリーに共感しました。
初めて読んだ時はティーンズハートでは珍しい三人称の文体が固い印象で違和感があったけれど、何度も読んでいくうちに気にならなくなりました。
失恋をきっかけに自分自身と向き合うさやかと、予備校で講師アシストに進路相談をしながら自分の夢と向き合う絢子。性格の違う接点のなかったふたりが徐々に仲良くなってお互いのことを語り合う友達になっていく過程もとても良かったです。
不安定な“思春期”を過ぎて、学生から大人に向かっていく“青春”と“成長”が感じられる作品。今高校3年生で進路に悩んでいる人におススメしたい作品です。
【君がくれた海】/奈月ゆう
中学時代に大好きだった作品で、今でも時々読み返しています。
心臓病を抱えている中3の真樹(まき)がクラスの不良男子である海(カイ)と少しずつ親しくなっていくストーリーですが、家族や友達との絆をメインにしていて、個人的にはベタベタなお涙頂戴作品でも悲劇の恋愛ストーリーでもないところがすごく好きです。
親友のユリがクラスのリーダー的存在である鮎美に目をつけられたのをかばったことがきっかけで今度は真樹がターゲットになってしまうけれど、優しい両親や主治医、もうひとりの親友・塔子や入院仲間のレナなど、周りの人たちの支えで負けずにまっすぐに立ち向かう姿に勇気をもらえます。とは言え、もちろん弱い部分もきちんと描かれていて、機嫌の悪いカイに胸元にある手術の傷跡を「気持ち悪い」と言われてショックを受けたり、レナが亡くなったことや主治医に「大人になるまで生きられないかもしれない」と告げられたことで生きる意味を見失って自棄になってしまったり…真樹と一緒に改めて「生きるってなんだろう?」と考えさせられる部分もあります。
わたしが特に好きなのは、花火大会の時に偶然小学生の男の子・潤(じゅん)がいじめを苦に自殺しようとしているところを真樹がカイと一緒に助けるシーンです。「壁は越えられる人の前にしか現れないんだよ」という言葉で潤が救われる場面には私自身も読むたびに元気づけられます。
病気・いじめをテーマにした青春系作品が好きな方におススメです。
【蒼い羽】/奈月ゆう
全5巻のシリーズ作品で、主人公の杏が看護師を目指して看護学校で学んで成長していくお話です。
1巻ではクラスメイトの春純のけがをきっかけに杏が看護師という職業に興味を持って看護学校受験を決めるまで、2巻以降は看護学校に合格してからの看護学生生活がメインのストーリー。
クラスメイトの春純やお兄さんの聖《ひじり》さん、ふたりの母親で作家をしている絵梨子さん、リハビリセンターで出会った知花ちゃん、看護学校で出会うクラスメイトや実習で受け持つ患者さん、色々な人と関わりながら人として成長していく姿に、読みながら人生や命について改めて考えさせられます。
発売当時、私はまだ中学生だったので看護学校の専門的な内容が少し難しくも感じたけれど、看護師さんになることがどれだけ大変なのか知ることができたし、勉強になりました。
作者の方が実際に看護師さんとして働いているということで、作中の実習期間のエピソードはとてもリアリティがありました。
現在看護師を目指している方、看護学生をされている方にぜひおススメしたい作品です。
【青き機械の翼】/水原 沙里衣
いじめが原因で不登校になってしまった中学2年生の知菜《ちな》の前に現れたのは、パソコンのパーソナリティーデータであるブルー・ウィングス。
「僕とフレンズになってよ」と言われて少しずつ心を開いていく知菜と、ファーストフレンズを失ったトラウマからある重大な決意をするブルー。パソコンと人間の心温まる友情ストーリーです。
発売された当時はまだようやくパソコンが一般家庭に普及し始めた頃でパソコンデータの仕組みがちょっと難しく感じたりもしたけれど、詩的な文章といじめをテーマにした内容がとても私好みで、今でも時々読み返しています。
ラストの友情が恋愛に変わるのか?読者に想像させるような終わり方も好きです。
【時の輝き】/折原みと
10代女子向け病気系作品の代表作と言えば、私の中ではこの作品です。
映画化もされているので、私と同世代、上の世代の方はご存知の方も多いのではないかと思います。(私は映画は観ていませんが)
私が初めてこの作品を読んだ時は中学生くらいだったので、純粋に命の大切さや好きな人の病気を受け止めて一緒に闘っていく由花の強さに心打たれました。
この作品自体は20年以上前の作品ですが、今の10代が読んでもきっと当時の私のように心打たれるものがあると思います。
【世界はきっと君に微笑む】/折原みと
身体障害者と介助犬をテーマにしたお話で、車椅子で日常生活を送ることがどれだけ大変なことか、介助犬がどれだけ大切な存在か、ということがとてもリアルに書かれている作品です。
車椅子生活経験のない私が偉そうに語れることではありませんが、ひとりひとりが差別や偏見の心をなくし、同じひとりの人として接することが大切なんじゃないかな、と改めて思いました。
主人公の雅が心ない一言に傷つけられて苦しんだ時、一青が「車椅子だろーがなんだろーが、人間としての価値は少しも変わるわけじゃねーんだよ!」と言う場面があり、その言葉がとても心に響きました。
また、介助犬のことについても詳しく書かれているのでとても勉強になります。社会の障害、心の障害、差別について、改めて考えさせられる作品です。
【明日はきっと君に輝く】/折原みと
『世界はきっと君に微笑む』の続編。どちらもタイトルの響きが好きです。前作から2年後、19歳になった雅と一青の物語。
美人お嬢様女子大生でライバル?の聖香さんも登場し、車椅子の偏見とコンプレックス、一青の過去や家族の問題とも向き合い、絆を深めていくふたり。
輝く明日を信じて前向きに生きる雅ちゃんに、勇気と希望をもらえる物語。
自分の境遇に悩み苦しみ葛藤する雅ちゃんの心情がまるで作者ご本人の体験のようにとてもリアルに表現されているのは、車椅子で生活されている方の気持ちや現状にしっかり向き合い理解し、読者に伝えようとする折原先生の気持ちがあるからだと思います。
人に物語を通して何かを伝えるということは、うわべだけではなく、本当に主人公の境遇や気持ちを自分のものとして受け止め理解したうえで書かなければただの綺麗事で薄っぺらい内容になってしまう、そんなことも改めて教えてもらえたような作品です。
【君が愛をくれたから】/折原みと
ひねくれ女子だった明日花が、犬の純太とクラスメートの広夢のおかげで少しずつ前向きに変わっていくアニマルセラピーストーリー。
実は私も10歳の時まで家族で犬を飼っていたので、犬が人を癒すというのはとてもよくわかります。この作品に書かれていることに終始共感しながら読んでいました。“可愛いだけじゃ動物は飼えない”ということを改めて教えてくれる作品です。