青空
「ありがとう。」

テツオは笑った。


「私何もしていないよ…。」

「いや、俺の体を心配してくれる、その気持ちだけでありがたいじゃないか。」

その感謝の言葉から溢れてくる切ない心情に、亜季は思わず泣きだしそうになり必死に耐えた。


多くの人々が、誰にも知られないうちに息を引き取っている。

テツオの心は、亜季など想像もできないほど、恐怖と孤独感で一杯であろう。


つらいよね。

テツオ。


亜季は話題を変えようと、長い道程で抱えてきた風呂敷を、両手で頭上に掲げながらテツオに言った。

「今からこれ、投げるから受け取ってね。」

「それはなんだ?」

突然の亜季の宣言に戸惑ったテツオの問いに、亜季はなにも答えず体を翻した。

まるでハンマー投げのように、風呂敷を遠心力をつけながら回し始めた。


そしてポイントを定めると、金網の上を狙って風呂敷を思いっきり放り投げた。
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