青空
「ありがとう。」

テツオは亜季に向かって大きく頭を下げた。

そして、おにぎりからラップをはずすと、おいしそうにをほおばった。


その嬉しそうな顔が、亜季はいとおしく思った。


やがてテツオは、一緒に入っていた割り箸をパチンと割ると、それが入っていた箸袋をじっと見つめる。

そこには、もう行くこともないかもしれない村の蕎麦屋の名前が書いてあった。


テツオはぐっと食いしばると、その紙片を丁寧に折りたたんで、ポケットに押し込んだ。

そして左手だけで、不器用そうに容器を開けた。


しかしテツオは、おにぎりを一個、肉じゃがを少しだけ食べると、それらを再び風呂敷に包み始める。

そしてそれを小脇に抱えると、ゆっくりと立ち上がった。
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