青空
「テツオ、しっかりして。生きていれば、必ず救われる。きっと病原菌に利く薬が見つけられるから。あきらめないで。」

「ああ…。」

テツオはそう答えたが、ホントは分かっていた。

病原菌に利く薬など、見つけられるはずなどないことを。


物資が豊富な地域との接触は、この通り金網で遮られている。

かといって、尾上たちが苦悩する大学の診察室では、保管されてた薬は試しつくされている。


何かを考えて目を合わせようともせず、足元の草を左手で力なくむしるテツオの姿を見て、亜季の胸は締め付けられた。

目の前で苦しむテツオに、かける言葉すら見当たらなかった。


この金網さえなければ。

この忌々しい鉄の塊さえなければ。

今すぐ駆け寄ってその頭を優しく抱いて上げられるのに。
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