青空
テツオはその言葉に頷くと、その右目の端からかすかに涙がこぼれ落ちた。


「…なあ…。」

「なんだ?」

尾上は思わずテツオの手を握った。

「…もしその薬に俺が耐えられなかったら…、お願いが…あるんだ…。」

「…馬鹿なことを言うな。」

尾上は震える声でそう言った。しかしこれから投与する劇薬の危険性は、ほかならぬ尾上自身がよく知っている。

「…亜季に渡して欲し…。」

消耗しきったテツオの言葉は、語尾がかすんで聞き取れなかった。


尾上がその口に耳を当てその言葉を聞き取ると、小さく頷いた。
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