青空
「体温をはかってくれ。」

北村はすがるような思いで、後ろに立つ看護婦にそう声をかける。

看護婦はそそくさと体温計を取り出すと、憔悴しきっているテツオの左脇に差し込んだ。


下がっていてくれ。

北村は祈るような思いでそう思った。


ケミシトロンも効果がないとすると、それ以外に残っているのはいわば「劇薬」ぐらいだ。

それらの薬品にもうテツオの体は耐えられないであろう。


だからといって、他にそれらの「死」の可能性が高い薬剤の臨床実験の検体として、自分の体を提供する人間などいないのだ。


看護婦が時計をちらりと見た。

そして小さく頷くと、ゆっくりと体温計を取り出した。
< 179 / 205 >

この作品をシェア

pagetop