青空
亜季はそれを見るやいなや、閉まりかけたガラス扉を押さえながら、食後のティータイムを楽しむ人々で賑わう店内に再び戻った。


「どういたしました、お客様。お忘れ物でしょうか。」

ちょうど厨房からホールに出てきた先ほどの女性店員が、変わらぬ落ち着いた様子でそう尋ねてきた。


亜季は飛びつかんとばかりに店員に駆け寄ると、必死の思いで話しかける。


「あの、わ、私…、こちらで働きたいんですが…。」

亜季の言葉が予想外であったのであろうか、店員は少し面食らったような表情を浮かべたが、意味を理解すると亜季に向かって一礼をした。


「かしこまりました。店長に話をしてまいりますので、少々お待ちくださいませ。」

そう言って店員はもう一度礼すると、店の奥へと姿を消した。


亜季の周りには彼女が残した、ほのかな心地よい香りが漂っている。
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