青空
「そう。この辺りじゃ、一番の桜の見所。」

「へえ。」

「いいところ選んだじゃない。」

目の前に住んでいながら、亜季はその通りの名前すら知らなかった。


「とりあえずさ、こんなおいしそうな料理を前にお預けは正直きついから、乾杯でもしよっか。」

「あ、はい。」

そう言うと、亜季はそそくさとまりのグラスに、差し入れのビールを注ぐ。

そして自分のグラスに、オレンジジュースを注ごうとして、ペットボトルのキャップを開けようと手をかけた。


「あ、亜季ちゃん。乾杯はビールにしようよ。」

「でも、未成年だし…飲んだことないし…。」

戸惑う亜季に、まりはくすりと笑った。


「いやいや、乾杯をするだけ。飲まなくていいから。」

まりはそう言うと、亜季のグラスにビールをほんの少しだけ注いだ。

亜季は少々戸惑いながら、そのビールを受けた。


「さてと。」

そう言ってまりは、自分のグラスを持った。


「可愛い後輩と出会えたことに、乾杯。」

「こちらこそ、乾杯。」

二人はそう言って、グラスの端をこつんと合わせた。


そして思いっきりグラスを飲み干すまりを見て、亜季は軽く自分のグラスには言った液体の匂いをかいで思わず顔をしかめる。

しかし、その芳醇な匂いはあまりにも苦く、とてもではないが亜季は飲めそうも無かった。


そんな亜季の様子を、まりは微笑みながら見詰めると、目の前のおいしそうな鳥のから揚げに箸を伸ばした。
< 34 / 205 >

この作品をシェア

pagetop