青空
そこにはあの頃と変わらぬ丸坊主頭の同級生が立っていた。

その懐かしい顔を見ると、思わず抱きつきそうになったが、亜季はぐっと堪えて思わず緩みそうになる口元に力を込める。


亜季はぐっと息を飲み込むと、テツオに心中を気がつかれないように涙を拭って顔を上げた。

「そうよ。偶然ね。」


亜季は相変わらず突き放すようにしか声をかけられない自分に内心舌打ちをした。

反面、そのほころびそうになる表情をテツオに気づかれないかと心配した。


「そうか。盆も近いからな。」

「うん。」

テツオの呑気な口調に、亜季は涙が出るほどの懐かしさを感じる。


再び溢れそうになる涙をこらえるように、亜季は少し上目遣いになって言った。


「東京の話、してあげよっか。」

感情を押し殺した顔の下に、高鳴る胸の鼓動を隠した。

亜季はじっとテツオの顔を見つめた。


テツオは無邪気な笑顔で答えた。

「いいね。聞きたい。」


そう言うと、テツオは辺りを見回した。


「とりあえずホームのベンチにでも座ろうか。」

「うん。」

亜季はそう返事をすると、歩き始めたテツオの背中に続いた。


喫茶店など、駅の周りにはない。

でも、あのベンチでよかった。


いや。


あのベンチがよかった。



緑に包まれたこ道を歩く懐かしいその背中は、この上もなくいとおしく感じられる。
< 56 / 205 >

この作品をシェア

pagetop