青空
亜季が慌てて顔を上げると、テツオは満面の笑みを浮かべた。


「田舎はいつまでも変わらないから。いつでも、帰って来い。」

そう言うテツオの優しい笑顔に向かって、電車のステップに片足をかけた亜季は意地になったように厳しく言い放った。


「二度と戻らないわよ!テツオもせいぜい頑張ってね。」

亜季はそう言い放ちテツオの手を振り解くと、乗りかけた列車に飛び込む。


それを待っていたかのように、列車の扉が音を立ててゆっくりと閉まった。


うんざりしたような顔で、亜季はホームが見えるボックス席の窓際に座る。

ホームの反対側に座ってやろうかとも思ったが、さすがに気が引けた。


座席の窓から見えるホームの上では、穏やかな顔をしたテツオがずっと手を振っている。

その姿は、列車が発車するとともに少しずつ少しずつ小さくなっていったが、いつまでもその振る手が止まることはなかった。



その姿を亜季は、泥と汗で汚れた野球ボールを握りながら、じっと見つめ続けていた。



亜季はテツオが何を思っていたのか、わかろうともしないままこうして旅立った。
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