青空
しかし温厚なテツオは、そんな部の雰囲気を壊したりはしなかった。


だらけた練習に笑顔で付き合った。

そして、薄暗くなって練習が終えるのと同時に、我先にと帰っていく部員たちとともに帰途についた。


そしていつも全員が別れる交差点で、チームメイトたちを見送ってから、ただ一人グランドに戻って黙々と孤独な練習にうちこんだ。

日が暮れかかった夏のグランドをひとりぼっちで走り、ボールのあとで真っ黒になった校舎の壁に向かって黙々とボールを投げ込み続けるテツオの後姿。

それを学校の図書館での勉強帰りに、亜季は金網越しによく見かけていた。


亜季はそんな風に練習を打ち込み続けるテツオに向かって、勝てなくやる気もない野球部でただひたすらに精進する意味を何度か問うたことがある。


そのような辛らつな亜季の質問に対し、テツオはいつもただ笑って応えるだけであった。


そのような曖昧な態度繰り返すテツオの姿を見るたびに、亜季の心は消化不良を起こすようなたとえようもない苛立ちを覚えたものだ。
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