青空
なぜテツオは、三年間その労力をつぎ込んだ白球を、田舎に背を向け東京へ旅立つ亜季へ手渡したのであろう。


亜季は薄暗い揺れる寝台列車にうつ伏せになりながら頬杖を着くと、右手で白球をいじりながらぼんやりと考えこんだ。

(まず一歩)

薄汚れた白球に書かれたその文字を、亜季はじっと見詰めた。


「何言ってんだか。」

亜季は滅入ったようにそう独り言を言うと、寝台の隅に置いた茶色の旅行バッグにその白球を突っ込み、仰向けになって毛布に包まった。


田舎で何も変わらないまま、ただ時間を浪費するテツオのような人間こそ、一歩踏み出すべきなのに。

そう思うと、あの頃に感じた多少の苛立ちにも似た感情が沸き起こり、亜季は慌てて頭を振った。
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