Anonymous〜この世界にいない君へ〜
(アノニマス……)

祭りでのことが昨日のことのように思い出される。感傷に浸っていた紫月だったが、目の前にフレンチトーストが置かれて意識がそちらに向けられた。

「あ、ありがとうございます」

「ごゆっくりどうぞ〜」

フレンチトーストにメープルシロップをかけていく。ホイップクリームにも忘れずにしっかりとかけ、紫月はフォークを手にした。

「いただきます」

フルーツとフレンチトーストを一緒に口に運ぶ。刹那、紫月の頭の中は幸せで満たされていった。男一人でカフェに来たことなどもうどうでもよくなってしまう。

(う、うまい!フルーツの酸味とフレンチトーストの甘さが絶妙にマッチしている!)

メープルシロップの濃い甘さ、フレンチトーストのバター、フルーツの酸味、その全てが紫月を癒していくように思えた。刑事という仕事柄、どうしても一般人が見ることのないものばかりを見聞きし、神経が張り詰めてしまうことが多い。

(アノニマスはよく想像で神経が張り詰める小説を書けるものだ)
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